再生可能エネルギーインフラで重要な役割を果たす中国製機器の一部に原因不明の通信機器が見つかったことを受け、米エネルギー当局はこれらの機器がもたらすリスクについて見直しをしているようです。
Rogue communication devices found in Chinese solar power inverters
ロシアとウクライナの紛争以降、アメリカをはじめとする多くの国々がエネルギーインフラのセキュリティチェックを強化しました。
そうした調査の過程で、これまで見過ごされていた問題が次々と明らかになってきたのです。
そして、世界シェアの約80%を占めると言われている「中国製太陽光発電」に潜む危険性とはいったい何なんでしょうか?
米国の中国製太陽光発電システムから不審な通信機器が見つかる
米国で、中国製の太陽光発電システムから製品資料に記載されていない不審な通信機器を発見されたようです。
これらの機器は、太陽光パネルを電力網に接続するために使用される「インバーター」と呼ばれる装置に隠されていました。
なぜこれが問題なのでしょうか?
通常、電力会社はセキュリティ対策としてファイアウォールを設置していますが、発見された不正な通信機器はこのファイアウォールを回避できる可能性があるのです。
米国の専門家が調査したところ、一部の中国製インバーターに携帯電話無線機を含む未記載の通信機器が混入していることが判明しました。
これは単なる技術的な問題ではなく、国家安全保障に関わる重大な懸念です。
専門家によれば、これらの不審な機器が意図的に設置されたものである場合、外部からの遠隔操作によって電力インフラを操作する「バックドア(不正侵入のための経路)」となりうるのです。
不審な通信機器の正体は?
発見された不審な通信機器は、製品資料に記載されていない携帯電話無線機などの通信コンポーネントです。
これらはファイアウォールをリモートで迂回できる可能性があります。
これらの不正な通信機器があれば、遠隔地からインバーターのスイッチを切ったり、設定を変更したりすることが可能になります。
これにより電力網が不安定になり、エネルギーインフラが損傷し、広範囲にわたる停電を引き起こす恐れがあるのです。
米国国家安全保障局(NSA)元長官のマイク・ロジャーズ氏は「中国は、我が国の基幹インフラの少なくとも一部を破壊や混乱の危険にさらすことに価値があると考えていることは周知の事実だ」と述べています。
専門家の指摘によれば、これらの機器は「事実上、物理的に電力網を破壊する方法が組み込まれている」可能性があるということです。
これに対して中国側は「国家安全保障の概念を一般化し、中国のインフラ整備の成果を歪曲し、中傷することに反対する」と反論していますが、具体的な説明はなされていません。
中国製の太陽光発電の世界シェア
中国は太陽光発電システムの世界市場で約80%を占めると言われるほど圧倒的なシェアを持っており、特にインバーター製造では主導的な地位を占めています。
コンサルティング会社ウッド・マッケンジーによれば、中国のファーウェイは2022年の世界インバーター出荷量の29%を占める最大手であり、次いで同じく中国のサングロウとジンロン・ソリスが続いています。
なぜこのシェアが問題なのでしょうか?
西側諸国の電力網における再生可能エネルギーの供給能力が急速に増大していることで、中国製インバーターへの依存度が高まっているのです。
欧州太陽光発電製造協議会は、欧州の太陽光発電容量の200GW以上(原子力発電所200基以上に相当)が中国製インバーターに関連していると推定しています。
この状況は西側諸国にとって致命的とも言える脆弱性を生み出しているのです。
ドイツの太陽光発電開発会社1Komma5°のフィリップ・シュローダー最高経営責任者は「10年前なら、中国のインバーターを停止しても、欧州の電力網に劇的な変化は起きなかっただろうが、現在では臨界質量がはるかに大きくなっている」と指摘しています。
世界各国はこの依存関係を見直す動きを始めており、リトアニアやエストニアといった国々は既に安全保障上の懸念から中国製機器の使用制限に踏み切っています。
不審な通信機器が大規模停電を起こす可能性
不審な通信機器を通じて中国が西側諸国の電力網に干渉できる可能性は、国家安全保障上の重大な脅威となっています。
専門家によれば、欧州ではわずか3~4ギガワットのエネルギー制御だけでも電力供給に広範囲にわたる混乱が生じる可能性があるとのことです。
どのようなことが起こりうるのでしょうか?
イスラエルのインバータ製造会社ソーラーエッジのサイバーセキュリティプログラムディレクター、ウリ・サドット氏は「十分な数の家庭用太陽光発電インバータを遠隔操作し、一度に不正行為を行えば、長期間にわたって電力網に壊滅的な影響を及ぼす可能性がある」と警告しています。
実際、2023年11月には米国など各地の太陽光発電用インバーターが中国製に無効化される事件が発生し、地元の電力供給に対する外国の影響力のリスクが浮き彫りになりました。
この事件は商業紛争によるものとされていますが、意図的な攻撃が行われた場合の脆弱性を明確に示しています。
各国政府はこの問題に対応するため、中国製機器の使用制限や国内生産の強化など様々な対策を検討しています。
米国エネルギー省は「国内製造業がさらに拡大するにつれ、エネルギー省は連邦政府全体で米国のサプライチェーンを強化し、信頼できる機器を電力網に統合するさらなる機会を提供するよう取り組んでいる」と述べています。
一般の消費者も、太陽光発電システムを導入する際には製品の安全性や信頼性について十分に検討することが必要なのかもしれませんね。