ハーバード大学の留学生受け入れ資格を取り消すなど、アメリカ政府が圧力を強める中、トランプ大統領は留学生の枠を「15%に制限すべきだ」と主張したようです。
トランプ大統領 「15%に制限を」ハーバード大の留学生数 「学びたいのに入学できない」米国人学生優先を主張(TBS NEWS DIG)
現在、トランプ政権は留学生に対する厳格な政策を展開し、すでに滞在資格を取り消された留学生は4000人を超えています。
この背景には国家安全保障、反エリート主義、経済政策など複数の理由が存在し、特にハーバード大学への圧力は象徴的な意味を持っているようです。
留学生の受け入れを制限することによってアメリカがなにを失っていくことになるのかを解説します。
留学生がアメリカを脅かす?ビザ制限の理由は”国家安全保障”

トランプ政権は国家安全保障を最優先に掲げ、留学生のビザ審査を大幅に厳格化しています。
これを単なる移民政策ではなく、外国からの潜在的脅威を排除する安全保障戦略の一環として位置づけているのです。
政権は特に中国系留学生に対する警戒を強めており、技術流出や情報収集活動への懸念を表明しています。
日本人留学生も車の速度違反などの軽微な理由でビザが取り消されるケースが報告されており、従来では考えられない厳格な運用が行われています。
また、各大学では留学生に対し冬休みを早めに切り上げて米国に戻るよう促すなど、予防的な措置を取らざるを得ない状況となっているようです。
この厳格な政策により、アメリカの高等教育機関における国際的な学術交流が大幅に制限され、長期的な研究競争力への影響が懸念されています。
ハーバード大学への公的資金凍結と反エリート主義
トランプ政権はハーバード大学に対する30億ドル(約4,355億円)とも言われる助成金を凍結するとして、大学への圧力を強めています。
トランプ氏、ハーバード大への助成金30億ドル打ち切り検討と表明(ロイター)
トランプ大統領がハーバード大学を攻撃している主な理由
イデオロギー的偏向への批判
ハーバード大学をはじめとする名門大学がイデオロギー(思想や観念)的に偏っているというのがトランプ大統領の主張です。
政権側は、ハーバード大学が反ユダヤ主義の監視を怠り、大学での人種的優遇措置を奨励しているほか、学問上の厳格さを放棄し、「左派一色」になっていると主張しています。
DEI(多様性・公平性・包摂性)政策への反対
トランプ政権は、ハーバード大学に対して、DEI方針の見直し、反ユダヤ主義的活動の取り締まり、反アメリカ的価値観を持つ学生に関する報告などを要求し、これを総額90億ドル(約1.3兆円)の助成金継続の条件としました。
大学側がこの要求を拒否したため、政府は補助金を凍結しています。
反ユダヤ主義への対応不足
国土安全保障省のノーム長官は声明で「キャンパス内で暴力行為や反ユダヤ主義の助長、中国共産党との関係について説明する責任がある」と主張。
特に、学生らのイスラエルのガザ攻撃に対する抗議デモを「反ユダヤ主義」と位置づけて批判しています。
留学生制限と反エリート主義
トランプ大統領は「留学生の比率は31%ではなく、15%程度で上限を設けるべきだろう」と言明。
ハーバード大や他の大学に進学したくても、外国人留学生がいるためにアメリカ人が入学できない状況があると説明しています。
「私は低学歴の有権者を愛している」と言い放ったトランプ大統領。
ハーバード大のような名門大学や金融エリートを批判することによって「エリートvs.庶民」という分かりやすい対立構図に置き換える『反エリート主義』の政治戦略だとも言われています。
留学生の受け入れを制限した結果、アメリカが失うもの
さて、やりすぎとも思える留学生の受け入れ制限をおこなった結果、アメリカはなにを失うことになるのでしょうか。
経済面での損失
- 年間約390億ドル(約5兆円)の経済効果の減少
- 大学の学費収入の大幅減少(留学生は通常、現地学生より高い学費を支払う)
- 地域経済への消費支出の減少(住居費、生活費、旅行など)
研究開発力の低下
- 博士号を持つ米科学者やエンジニアのうち43%が外国生まれ( 第2章 第2節 各国のイノベーションをめぐる状況とその創出の要件 – 内閣府)という現状での人材流出
- 世界トップレベルの研究者の獲得競争での劣勢
- 国際的な共同研究プロジェクトの減少
イノベーション創出力の減退
- シリコンバレーを支える外国人起業家の減少
- 多様な視点によるイノベーションの機会損失
- スタートアップ企業設立数の減少
国際競争力の低下
- 世界で最も人気のある留学先としての地位の失墜(一位はカナダ)
- 中国、カナダ、オーストラリアなど他国への優秀な人材流出
- 国際的な学術ネットワークからの孤立
社会・文化面での影響
- キャンパスの多様性の減少
- 国際的な人脈形成機会の喪失
- アメリカの価値観や文化の国際的影響力の低下
長期的な人材確保問題
- 高技能移民の源泉である留学生パイプラインの断絶
- 労働力不足が深刻な分野(STEM領域)での人材枯渇
- 次世代のアメリカ社会を支える人材基盤の縮小
米国立科学財団の報告書によると、21年時点で博士号を持つ米科学者やエンジニアのうち43%が外国生まれであり、留学生や外国生まれの研究者の存在はアメリカの研究力の根幹を支えています。
米研究者の75%がトランプ政権下で国外移動を検討しているという調査結果もあり、この政策の影響の深刻さを物語っています。
留学生制限政策は、短期的な安全保障上の利益と引き換えに、アメリカが長年築いてきた研究教育における国際的優位性や競争力、優秀な人材を失うリスクを高めているのです。